母袋先生の個展を見てのメモ

今回は正方形のペインティングのシリーズの大作1点、90cm角の作品2点、ジャッドの彫刻のような形態をしたペインティング1点。そして習作やドローイング。
「皮膜のような絵画」という、母袋先生がずっとこだわってこられたにされていたタームがあるのですが、そこに対しての答えが今回の展覧会のテーマのひとつになっていたと思います。
一つは絵の側面を彫り込んだというか、真上から見ると観者側が広い台形になっている支持体に描いた作品。絵の横に回り込んでも側面が見えないので、壁から絵の表面だけが浮いたようにみえる。
もう一つは箱型の作品で、正方形の絵が箱の奥にはまったようになっていて、側面を見えなくし、また見る角度を限定したもの。青梅にもこのタイプの作品が出品されていました。
僕としては後者の作品がとても興味深くて、見る角度と距離の限定の効果がきっちり発揮されていて、絵の表面だけに強制的に意識が向かっている状態が新鮮でした。これは先年のINAXギャラリーでの壁に穿った窓より作品を見る装置から派生したものかとも思うのですが、あのときは結局絵に近づくこともできたりもしていたので、今回の方がより積極的な印象です。
加えて、絵画作品だと天井のスポットライトから絵に対してなるべくむらなく全面に光をあてるのが照明のスタンダードなわけですが、箱型の作品は差し込んだ光が箱の底面に反射した光が薄く絵を浮かび上がらせていて、寺院や教会に設置されている絵画をみるときの感覚に近いものがありました。これが母袋先生の正方形の作品シリーズの志向する感覚とすっと合っていて、絵画のもたらす感覚をひとつ拡張していたように思いました。