「これからの写真」展の鷹野隆大作品の件

たまたま書く時間があり、何を考えたかまとめるためにたまにはブログに書いて残すもよかろうと思い書いてみることにしました。私もたまたま同じフロアで展示をしていますし、知人であり、表現者として尊敬している鷹野隆大氏のことでもあります。愛知県美術館で開催中の「これからの写真」展の鷹野作品がわいせつ物の陳列の可能性ありとして県警から対応を求められ、紙で該当部を隠すという対処をした件です。

愛知県美術館名古屋市東区)で開催中の「これからの写真」展(同美術館、朝日新聞社主催)で展示されている写真家・鷹野隆大氏の写真が、「わいせつ物の陳列にあたる」として愛知県警が12日、同美術館に対処を求めた。同美術館では13日から作品を半透明の紙で覆うなどして展示することにした。

 問題とされたのは、男性の陰部などが写った作品12点。匿名の通報があり、県警生活安全部保安課が同美術館に「刑法に抵触するから外してください」と対処を求めた。同美術館と鷹野氏は協議し、撤去でなく、展示方法の変更で対応すると決めた。小品群11点は紙をかぶせ、1点の大型パネルは胸より下をシーツ状の紙で覆った。鷹野氏は「人と人が触れあう距離感の繊細さを表しており、暴力的な表現ではない。公権力による介入を隠すのではなく見える形にしたかった」と変更を了承した。

美術館展示写真、愛知県警「わいせつ」 一部覆う:朝日新聞デジタル

この件、「表現規制が強まっとるんや!」と警察判断を批判する鼻息荒い方のご意見もTwitterで散見するのですが、チャタレイ事件の判決において「芸術であっても猥褻」であるとされて以降、いくつかの例外はあってもほぼそのままの猥褻>芸術で判例が積み重なってきているようですから、そこを覆す判断を県警に求めるのは難しい、というのが私の考えです。嫌だよ、という意思表明はしますけどね。

現状、猥褻に抵触する表現は警察ににらまれたらゴメンナサイするしかないグレー状態なんじゃないかと思います。そして鷹野氏は10年以上このグレー状態の中を歩んでこられえているわけですから、このことはもちろんn重々理解されているのだと思います。なのでウィットに富んだ変更展示をすっと差し出せるわけで。

美術館も、このまま抵抗しても作家を犯罪者にしてしまう可能性がある以上、こういう判断になるのも致し方なしと思います。最悪の事態としてある程度は想定されていたんじゃないでしょうか。

ただし、鷹野氏の作品は(ろくでなし子氏の活動とは異なって)こういう摩擦が生まれ、可視化されることは副産物的に生じることはあっても、主目的ではないんですよね。あくまでも、「美」をめぐる作品であると私は思っているので、鷹野氏がベストだと最初に判断された状態で展示されているのがもちろん一番幸せなことなんです。

ならどうしたら良いか、ということなんですが、今回のことはひとまずおいて、根本的な問題ー刑法175条を見直す方向に話を持っていき、こういうことは繰り返さないようにしないとなあ、ということでしょうか。

構図としては風営法のダンス規制問題と同じだと思います。最初は取り締まった警察に怒りをあらわに抵抗していたダンス規制問題ですが、手順を踏んで法そのものの問題に目を向けさせたことでようやく法改正の方向で進んでいるようです。あの動きから学べることは多いと思うんですけれど、容易ではないですよね。はてさて…