「杉並学園アートプロジェクト いとまの方法」「[FIGUR] 土肥 美穂 / ガブリエル・ハートリー / 寺内 曜子 by HAGIWARA PROJECTS」

建て替えのために取り壊しの決まった児童養護施設杉並学園の建物を会場にした展覧会「杉並学園アートプロジェクト いとまの方法」を観ました。企画は一般財団法人カルチュラルライツ、出品は安部寿紗、泉里歩、木村桃子、西村卓、深浦よしえ、堀江和真、三田村光土里、ゆにここ、吉川陽一郎。会期は2022年5月3日(火・祝)〜8日(日)。

会場となっている場所にもともとあるもの(掲示や注意書き)を部分的に残しつつ、それぞれのアーティストが空間や場所の要素をもとに制作したり、作品を選んで設置しています。自分も数年前に近所の音楽スタジオでの図工ワークショップで児童養護施設の子どもと関わっていたので、どうしてもその時のことを思い出して建物を見てしまいます。あの子達、元気にしているだろうか。

作品だけではなく過去の職員さんの思い出を綴った文章も掲出されていて、場所に思いをはせることと作品鑑賞がうまく接合されていたように感じました。

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屋外では吉川陽一郎さんが地面に円を描く作品をパフォーマンス的に制作。子どものお客さんがこの作品をめちゃくちゃ楽しんでいて、気持ちの解れる時間を過ごしました。

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いとまの方法 : 杉並学園アートプロジェクト | プロジェクト | 一般財団法人カルチュラルライツ

 

CADAN有楽町の「[FIGUR] 土肥 美穂 / ガブリエル・ハートリー / 寺内 曜子 by HAGIWARA PROJECTS」展へ。様々な角度から「かたち」にアプローチしているアーティスト3名のグループ展。本日は出品作家の寺内曜子さんのギャラリートークでした。寺内さんには昨年、私の勤務先の大学で作品についてレクチャーをしていただいたので流れを知ってはいるつもりですが、やはり個々の作品について直接お話をうかがうとまた違うものです。

トークでは、かたちは扱うけれどもあくまで世界に対立がないことを主題として作品で可視化し、伝えることが目的なのだとお話されていました。また、出品作品の模型(紙)をもとに構造を解説してくださいました。もちろん主たるテーマはあり、それを軸に制作されているのだと思うのですが、ここにある作品はメッセージの伝達だけではなく、艶かしさやそのかたちが現前していることへの興味、生命感を感じる、などなどさまざまな反応を呼び起こすものとして現れています。

そして、この言明との微妙なズレにこそ、造形的な作品の豊かさがあるのでは、と思ったりもするのです。

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制作日記

終日制作。今はサーチリザルトのシリーズを主に制作しています。6月にMaki Fine Artsでグループ展が予定されているのでいくつかはそこで発表することになるでしょう。

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サーチリザルトのシリーズを作り始めたのは2010年。そこからだいぶ経ちました。最初は影響を受けた抽象表現主義の画家を画像検索で検索して、その画面を描いていました。その後、インターネット上での絵画はもちろんそれだけではないことを描きたくて2018年の個展ではモチーフを北斎やホイッスラーなどの具象絵画にも広げました。その際、一つ一つのサムネイルのサイズが大きくなっています。そこではある程度うまくいったのですが、最初の「サイズが失われて、画像化、情報化された絵画が多数並んだ光景」の異物感が作りにくいなあ…と最近は感じていました。

それもあって、今回は取り組む際にサムネイルを小さく、画像数をたくさんにしてみたのですが、かなりあの感覚に合わせられるようになった手応えがあります。

このシリーズの理想に近づいているんじゃなかろうかと感じながら、手を動かしているところです。

 

高崎〜渋川

高崎市美術館で「あの風景を探しに美術館へ~ヨーロッパ・アメリカ・アジア…絵画旅日和~」展を観る。どんな展覧会か把握していなかったのですが、東京造形大学の卒業生の衣真一郎さんが出品していると聞いていたので朝イチで鑑賞したのでした。風景をテーマとした高崎市美術館の所蔵品でした。

並んでいるのはウェブサイトの告知文からコピペすると藤田嗣治香月泰男、木村忠太、パブロ・ピカソ、中村節也、山口薫、田中朝庸、磯辺行久、安井曾太郎前川千帆の作品。いわゆる巨匠画家は小さめの作品だったり版画だったりするので企画としてはギリギリ成り立つかどうか…といった感触ですが、磯辺行久の版画作品等、珍しい作品もありました。

https://www.city.takasaki.gunma.jp/docs/2022021300011/

そんな中で、地元のいわゆる公募団体展で活動されていた「洋画」分野の画家の作品も見ることになるのですが、久しぶりにそういった作品に向きあうと頭には「凡庸」の二文字が浮かぶわけです。林武的な厚塗り、安井曽太郎的な筆触、でもそれらを最初から超えることなどハナから考えてない上手い絵たち。自分が考える制作の目的と考え方が異なるので優劣の問題ではないと考えてみても「ふつうの絵だ」としか感じないこの感覚をどう処理してよいのかわからず、モヤモヤしながら見続けておりました。

ただ、この展示の最後には前述した衣真一郎さんの作品があったのでした。いわゆる上手い絵具の乗りはしていない、荒々しいけれども児童画のようなのびのびした線や遊び心のある構成で出来た作品は、洋画エピゴーネンの作品群と並ぶと良い意味で異質で、何か救われたような心持ちになりました。

 

高崎市美術館の同じ敷地にあった旧井上房一郎邸も見学。いい空間でした。

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次にrin art associationで白川昌生「エネアデスのほうへ」展を観ました。既製品や廃材を構成して制作されたレリーフや彫刻による展覧会。いつも白川さんの作品を見て感じる「何故これらを自分は作品だと感じるのか」の謎はずっと解けないですね。素材のとり合わせは自然で、造形的に作り込むわけでもなく、でもあるまとまりを感じる、このバランス。なんでもないものを用い、最小限の所作で組み合わせ、「作品」が生まれる様は魔法みたいだなぁ、と思います。

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エネアデスのほうへ | rin art association

 

渋川へ移動。駅前の味わい深い喫茶店「ルナ」で昼食。

のち、今回の遠征の一番の目的であったCONCEPT SPACEの「エルンスト カラメレ/村上友晴 − 40周年記念企画 −」を。現在「ギャラリーシマダ アーカイブ」に取り組んでいるのですが、エルンスト カラメレも村上友晴も、そのギャラリーシマダで個展を開催していたのです。特にカラメレの実作は見たこともなかったので、見逃すわけにはいきません。

EXHIBITION | CONCEPT SPACE

本展、村上友晴さんの紙を支持体にした作品が凄まじく良かったです。1980年代前半のものが多く、経年で状態が変わっていたりもしているようです。でもその変化もなんとも美しくて、作者は手を置いてからも40年の時間という画材を使って作り続けているんじゃなかろうか、とすら感じてしまいました。

オーナーの福田さんからも貴重なお話をたくさんうかがいました。もっと早くに来ておくべき場所でした。

 

ここまで来たら、とハラ・ミュージアム・アークで「雲をつかむ:原美術館/原六郎コレクション」展も観ました。品川の原美術館にあった建物一体型の宮島達男作品や奈良美智作品もお引越ししてました。展覧会としてはCONCEPT SPACEの体験のあとだと物足りなさも感じつつ。

帰路へ。よく晴れた一日でした。