文化の保存問題


たとえば、昨年第17回高松宮殿下記念世界文化賞を彫刻部門で受賞したのは衣服デザイナーの三宅一生さんでした。彫刻部門?と多少の疑問をいだきつつも、ファッションに関心のない私でも興味を引くユニークな創造課程と長年にわたる内外での活発な活動は日本で公的に認められるに値するものだと思います。

ところがそんな三宅一生さんの活動をいざ実際に見てみよう、と思ったとしても、困った事に現在首都圏に三宅一生の作品を収蔵している文化施設はありません。もちろんイッセイ・ミヤケのブランドは現在も継続していますが、現在ブランドの制作は滝沢直己さんに引き継がれていますし、公的にアクセス可能なアーカイブもありません。ニューヨーク近代美術館では数点収蔵しているのですが。


美術に関しては美術館が(かなり不十分とはいえ)保存、公開の役割を担っていますが、ファッションやデザインの領域ではほとんどケアがありません。こういった、「参考にしたくても実作を見る機会がない」問題は深刻だと思います。

現在三井不動産が六本木に建設中の東京ミッドタウン内に三宅一生文化財団が運営するデザイン活動拠点21/2 1DESIGN SITEが開設予定です。デザインミュージアム構想の噂は耳にしており、いよいよデザイン美術館の開館か、と一瞬期待を持ったのですが、残念なことに展示/ワークショップの施設との事。コレクションは持たないようです。
http://www.mitsuifudosan.co.jp/home/news/2005/0714/index.html


このままでは倉俣史朗も、剣持勇も、杉浦康平も、河野鷹志も、原弘も、いざ見ようと思ってもどこに行けばいいのかわからないままです。これは海外から関心を持たれたとしても資料の請求に答える場所がない、ということでもあります。


これまで多くの人が汗水流して作り上げてきたデザイン、ファッション、出版文化を保存できていない状況はどうにかしてほしいですし、この問題をきちんと認識しないとアニメーションやマンガについても同じことを繰り返してしまいそうです。また、実験映像、ビデオアートも開館時以降増えていないICCのコレクション以外見当たらず、作られた端から消えていってるのも事実です。


その場その場で形だけ取り繕ってはいますが、文化をきちんと蓄積して次の世代に生かしていく、という思考がこの国の文化施策には根本的に欠落しているように思えるのです。