そろそろ著作権の延長問題について一言いっとくか

ニュース - 著作権の保護期間延長問題、権利者側への反論相次ぐ――文化審:ITpro

この問題についての議論をずっとおっていましたが「文筆、出版」「映画」「音楽」「ソフトウェア」以外の分野にほとんど触れられないまま進んでいる事にいつも疑問を感じていました。三田氏も著者権者の代表として延長の必要性を(創作者からみても理解できないロジックで)訴えてらっしゃいますが著作権法の改正は他分野にも必然的におおきな影響を及ぼすことをきちんと理解されているのでしょうか。著作権問題において現代美術はないものとして扱われいるようで正直みていて苛立ちを覚えます。

たとえば延長されることで権利者が不明の著作物が増加し、利用の妨げになるのではないかという反論に対し、権利者団体側が著作物の利用を容易にするための施策として著作物検索用ポータルサイトをつくりますよ、という話になっています。

 権利者団体17法人が共同で8月31日に発表した著作物検索用ポータルサイトと権利者データベースについては、17法人の取りまとめ役である三田委員が構想を説明した。

ところが美術、特に現代美術に関して言うと、

しかし保護利用小委の委員からは、構想通りにデータベースの整備が進まないことを懸念する声や、費用対効果の見込みが甘いのではないかとする疑問の声が相次いだ。

ということよりも

 「現時点で著作権の管理事業をしている団体はほとんどないし、権利者団体に登録していない創作者も多いのではないか」(梶原均委員)。

が一番の問題だと現代美術業界に片足つっこんだ人間ならすぐに気付くはず。では実際どうなのか。

ここからは無い知恵絞って調べながら書いているので間違っていたらごめんなさい。またご指摘いただけると助かります。
著作物検索用ポータルサイトを構想している「17法人」が具体的に何なのかは
ニュース - 著作権17団体、権利者データベースを2009年1月に開設:ITproの記事から
権利者団体17法人のデータベース整備状況(発表資料から)
で判りましたが、そこから美術に関するところでは

の4団体がみつかります。
ちなみに日本美術著作権連合とはhttp://www.kengyu.com/bijoren.htmlによれば

構成団体:

とのこと。

今回の著作権ポータルへの動きへの準備なのか(社)日本美術家連盟にリンクのはってある日本美術著作権機構(APG-Japan)には著作権者を検索するページがありました。

ちなみに日本美術著作権機構とは

日本美術著作権機構(APG-Japan)とは
マルチメディア時代の到来に備えて、美術・写真・グラフィックアート、それぞれの著作権を擁護し、その円滑な利用を促進するため、1995年5月29日、日本美術著作権機構を設立しました。
現在は社団法人日本美術家連盟有限責任中間法人日本写真著作権協会日本美術著作権連合の3団体により運営されております。
APG

で、ここで現代美術の作家名を適当に入力して検索してみると判る事ですがほとんどヒットしません。50、60年代の前衛世代は全滅。モノ派もそれ以降もほぼデータは無いです。所属云々以前に現代美術寄りの若い美術家に日本美術家連盟の存在自体が知られていないんですから当然といえば当然ですが。(だから日本美術家連盟が不要、とは思いません。美術で唯一、公的に権利を主張できる団体なのですから。逆に前衛の人たちが公共的な仕事をサボりすぎたと思ってます。)

ちなみに美術の著作権管理を扱う団体は民間にもあります。
ACC 美術著作権センター

が、現代美術は含まれていませんね。こういうどこにも属していない作家の場合はどうなっているのでしょうか。
ここで参考になる記事を。美術著作権協会にながくいらっしゃった方の記事です。

美術作品と著作権(1)――いつ、いかなる状況で、問題になるか
http://www.dnp.co.jp/museum/nmp/artscape/soft-tech/0105/soft-tech.html
まず、美術分野で著作権が問題になる事例を紹介しています。

これに対し、美術の場合、展示という通常の発表行為の段階では展示者が著作権者の許可を得る必要はなく、作品が何らかの媒体に複製使用されるときに初めて著作権の問題が生じます。そして、他のジャンルと比べて、複製媒体がきわめて多種多様です。出版物、テレビ、ビデオ、CD-ROM、インターネット、広告媒体、衣類、所謂ミュージアムグッズ(複製画、絵葉書、アクセサリー、文具類、等)、その他、様々な媒体が考えられます。 <太字は引用者による>

つまり多くは作品写真などの利用が問題になるということだと思います。そんな商売の話なんかオレらにゃ関係ねえよ、とお思いの制作者もいらっしゃるかもしれませんが、教科書や美術館の展覧会カタログへの図版掲載も著作権者の確認が必要なことをお忘れなく。こんなトラブルのニュースもありましたし。
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つぎに、美術における著作権管理団体の現状についての記事
美術作品と著作権(2)――いかなる団体が、どのような機能を果たしているか
http://www.dnp.co.jp/museum/nmp/artscape/soft-tech/0106/soft-tech.html

一方、日本美術の著作権については、横山大観等、ごく限られた数の作家に関して日本美術家連盟が管理業務を行ってきましたが、数多くの作家の著作権をまとめて管理している団体はなく、APGが出来た現在でもこの状況は変わっていません(ただし、APGは、今後、日本作家の著作権を集中管理することを目指しているようです)。したがって、日本作家の作品を使用する場合には、作家ないし遺族を探して個別に連絡を取らねばなりません。弁護士や画廊が著作権管理を委ねられていることもありますが、大半の場合、作家や遺族が個人的に対応しているのが現実です。場合によっては、使用者と著作権者が直接コンタクトした方が良いこともあるでしょうが、たとえば、美術館の所蔵品図録や展覧会図録に作品を掲載するために、多数の著作権者から個別に許可を得て、それぞれに個別に使用料を支払うという作業は非常に効率が悪いといえます。

つまりJASRACのように集中的に管理する団体のない美術、とくに現代美術においては実際のところ作品図版の掲載等の交渉は作家との直接交渉か取り扱っているギャラリーが窓口となるかだというわけですね。
ではギャラリーが無くなる、あるいは現役を引退してギャラリーとの関係が無くなった場合の窓口は作家かその遺族との直接交渉だけになると思いますがそうなった場合連絡先はどうやって調べたらよいのでしょうか。狭い業界特有の人づてしかなくなるということでしょうか。オフィシャルな入り口のない、その状況を考えただけでも利用者としてはと戸惑いのある状況だと思うのですがさらに悪いことに、長年作家/評論家等の連絡先の唯一のタウンページ的役割をはたしていた美術手帖の年鑑が個人情報保護法の影響で発刊されなくなりました。インディペンデントの作家とはますます連絡先が調べづらくなっているというのが現状だと思います。
またこれはデザインの分野の話ですが、ある出版社で戦後の海外デザインを紹介する書籍を制作した際、本人が存命の場合は快く図版使用にOKがでたのに、本人が亡くなられて遺族が管理されているものは非常に手こずった、あるいは許可がおりなかった場合もあったという話を聞いたことも付記しておきます。

以上から現代美術に関しては著作権の確認のための窓口が整備されていない事、また見通しがたつ見通しすら立たない状況を鑑みて、著作物の利用に支障が出るケースの増加は予想されると思います。死後50年ならなんとか連絡先は辿れそうですが70年になったときいったいどうなるのか。
そして椿昇さんも指摘されていますが現代美術って延長されてメリットを得られる作家なんて数パーセントにも満たない分野なんですよ、そもそも。よって延長は不要、もっといえば現代美術においては死後50年でも長いというのが私の意見です。EUの水準にあわせる必要があるのは維持する年数よりもまずは影響のある全てのものがきちんと利用できる環境じゃないですか。