本当に館内での写真撮影ができないのは日本の美術館だけなのか

ちょっと前の話ですが、2008年の元旦から青森県立美術館の目玉作品になっている奈良美智さんの作品「あおもり犬」が来館者に自由に撮影してもよいことになったとWeb東奥の記事で知りました。(現在記事はリンク切れ)

あおもり犬は、弘前市出身の美術家奈良美智さんが制作。開館以来大人気で、来館者から「撮影したい」という声が上がっていた。奈良さんからも「自由に撮影させてほしい」という要望があったため、撮影可能となった。

いい話だな、と思いかけたのですが「なんで著作権者である作家個人に許可を取ればすぐに済んでしまいそうなことがこんなに時間がかかるんだろう」という疑問がふとわいてしまったのでちょこちょこと調べていました。

はてなでも美術館等に行って写真撮影等をするとだめなのでしょうか?美術館.. - 人力検索はてな
のような質問があったようですが、

美術館の作品撮影禁止の理由としてあげられる主な理由は
1.作品の著作権保護のため
2.フラッシュの光による作品へのダメージを防ぎたいため
3.他の鑑賞者の妨げとなるため

であるようです。数千数万のコレクションについて一点一点許諾をとって展示の際に許可不許可の指示を出し、監視業務者に徹底させるのは大変であることは想像できますし(公立美術館における指定管理者制度の導入下ではさらに困難化していくはず)、フラッシュが作品に良くないのも理解できるので正当な理由だと私は思います。
しかし、それでは納得できない、という意見がweb上にもたくさんみつかるわけです。

パリのルーブルオルセー美術館に行ったときは、フラッシュを使わなければカメラ撮影はOKだった。それに対し日本ではなぜか、ほとんどの美術館では写真を撮ってはいけないどころか、カメラの持ち込みさえ禁止するところもある。
http://news.livedoor.com/article/detail/2879109/

ところで、海外の美術館は、撮影OKのところも多くて初めて海外の美術館に行ったときは、カルチャーショックでした。
美術館の撮影禁止と文化度合い - やえちゃんち

撮影禁止についての感想
 ついでながら,フラッシュや三脚を使わないカメラ,さらにビデオの撮影を禁止するというのは,世界中で日本の美術館ぐらいである。禁止のための理由はいくつか考えられているが,自分の美術館の絵葉書や出版物の売れ行きが落ちるという心配からのケチな習慣である。
楽天が運営するポータルサイト : 【インフォシーク】Infoseek

それにしても、ストロボたかなければ写真撮ってもいいって、いいなぁ。日本の博物館、美術館はまったくどうでもいい規制が大過ぎるよなぁ。写真はともかく、スケッチもダメ、ガム噛んじゃだめ、ちょっと混んでると「立ち止まるな」、あれダメこれダメ。上海みたいに食いながら写真撮りながらがいいとはいわんが・・・・。NYのメットやルーブルでも座り込んでデッサンしてる学生なんか多いのになー。小役人根性で美術だ文化だって顔すんじゃねぇっての。
http://www.ringolab.com/note/natsume2/archives/003978.html

夏目先生まで…!

いずれの意見もポイントは「海外には撮影できる美術館があるのに日本ではなぜできないのか理解できない」ということのような気がします。でもちょっとでも考えればわかるはずなのですが、著作権の問題はどこの国でも同じはずなのでそこのところで違いがでてくることは本来ありえないわけです。むしろ保持期間は日本が作者の死後50年、欧米が70年で欧米の方がより長いわけですから。で、実際はどうなのかざっと美術館ウェブサイトで調べてみます。
ルーブル美術館→基本的に撮影可、一部不可

美術館見学規約

アポロン・ギャラリー内と、ドゥノン翼2階のイタリア、スペイン、フランス絵画展示室では、写真とビデオの撮影が禁じられております。
ルーヴル美術館では、来館者の皆さまからの苦情を数多く受け、最も来館者が集中するエリアに限り、撮影を禁止する措置を取りました。
監視員と標示パネルがお知らせしています。
教育関連の理由または研究のための撮影に限り、例外的に認められています。書面で撮影許可の申請をしてください。
Site officiel du musée du Louvre

オルセー美術館→常設展示は個人的な使用を目的とするものに限り可、特別展は不許可

Photography and filming rights

Filming and photography are not allowed in the temporary exhibitions.

During museum opening times, works may be photographed or filmed in the permanent exhibition halls for personal or private use, excluding use for groups or for commercial purposes.

The use of flash, incandescent lamps, tripods or other support, is not allowed without an individual authorisation from the museum director.

For filming or photography, or for groups or commercial use, see under Professionals-Companies.
http://www.musee-orsay.fr/en/visits/groups/copying-filming-photography.html

ポンピドゥ・センター→常設展示のみ基本的に許可、一部不可

1. Can I film or take photos of the works in the Museum or exhibition?

You may film or photograph works from permanent collections (which you will find on levels 4 and 5 and in the Atelier Brancusi) for your own personal use. You may not, however, photograph or film works that have a red dot, and you may not use a flash or stand.

http://www.centrepompidou.fr/Pompidou/Communication.nsf/0/3590D3A7D1BDB820C125707C004512D4?OpenDocument&sessionM=3.10.1&L=2

大英博物館→基本的に撮影可

Filming

Photography with flash and video recording is permitted in most galleries for private purposes only, using hand-held equipment. For commercial photography and filming please see business services.
http://www.britishmuseum.org/visiting/access_and_facilities.aspx

TATE→基本的に不可

Photography and video filming are not normally allowed at Tate.

national gallery london→基本的に不可

4. Can I take photographs or use a video camera in the National Gallery?

Photography or the use of video cameras is not permitted anywhere in the National Gallery.

If you are interested in obtaining photographs or digital reproductions of specific paintings, please contact the Picture Library. The Gallery Shops sell postcards, posters, slides and videos relating to the collection.

If you wish to ask for permission to take photographs for professional purposes please contact the Picture Library.
http://www.nationalgallery.org.uk/plan/faq/research/res4.htm

MOMA→常設展示は個人的な使用を目的とするものに限り可

Cameras

Still photography for personal use is permitted in collection galleries only. No flash or tripods allowed. Videotaping is permitted in the lobby only. No photographs or videotapes may be reproduced, distributed, or sold without permission from the Museum.
Sketching

Sketching is permitted in the galleries (pencil only, no ink or paint) with sketchbooks no larger than 8 1/2 x 11 inches (21.6 x 27.9 cm). No easels, stools, or sketching while sitting on the floor is permitted. If galleries are crowded, guards may ask visitors to stop sketching or writing.

メトロポリタン美術館→常設展示は個人的な使用を目的とするものに限り可、特別展は不許可

ギャラリーでの写真撮影ポリシー

美術館の常設展における写真撮影は私用、および非営利目的の場合のみ許可されています。撮影された写真を出版、売買、複製、転写、配給、およびその他のいかなる営利目的に利用することはできません。特別展や「写真撮影禁止(No Photography)」のサインのあるエリア、および個人コレクションやその他の施設から貸し出された美術品の写真撮影は禁止されています。フラッシュの使用は禁止です。映画・ビデオ撮影は禁じられています。三脚は平日にのみ使用できますが、使用前に大ホール内の案内所から許可を得る必要があります。

東京国立博物館→基本的に撮影可、一部不可

【 撮   影 】
○ 平成館2階の展示室内は撮影禁止です。
上記以外の展示室であっても撮影を禁止することがあります。
撮影禁止マーク 撮影禁止
マーク
○ 撮影可能な展示室においても、撮影禁止マークのついている作品に関しては、所蔵者の意向により撮影ができません。
○ 撮影可能な展示室においてはカメラを手で持って撮影してください。
フラッシュ、追加照明、一脚・三脚は使用できません。
○ 携帯カメラなどシャッター音が出る場合は特に、他のお客様の迷惑とならないよう、ご配慮ください。

http://www.tnm.jp/jp/guide/notes/index.html

東京国立近代美術館→基本的に撮影可

Q: 作品の模写・撮影(含デジタル・カメラ)はできますか?
A:所蔵作品展(常設展)での本格的な模写はできません。写真撮影は可能です。お手数ですが、1階インフォメーションにて、撮影許可のシールを受け取ってください。ただし、フラッシュや三脚のご使用はできません。また一部撮影をお断りしている作品もございますのでご了承ください(作品横に撮影禁止のマークがはってあります)。
なお企画展での撮影は、借用の際の契約上、原則的に禁止されております。
http://www.momat.go.jp/Honkan/faq-photo.html

国立西洋美術館→基本的に撮影可

作品の模写・撮影(含デジタルカメラ)はできますか?
本格的な模写はできません。当館が所蔵する作品(常設展示作品)については、写真撮影は可能です。ただし、フラッシュと三脚は使用できません。また、展覧会等で他の美術館等から借用した作品の撮影は一切禁止しています。
http://www.nmwa.go.jp/jp/guidance/faq.html

テートもロンドンのナショナルミュージアムも撮影不可ですね。
つまり、こういうことだと思います。

  • 欧米では著作権の明らかに切れている(作者の死後70年経っている)作品を中心的にコレクションしている美術館はそのギャラリーを基本的に撮影可にしている。
  • 所蔵している作品でも、著作権のきれていない=作者の死後70年経っていない作品を中心にコレクションしていることろは撮影を許可しているところとしていないところがある
  • 上記に関して、許可しているのは全てアメリカの美術館であることから、著作権の切れていないコレクションを撮影可としているのは、アメリカのみの特殊な事情=美術館での私的複製が公正使用(フェア・ユース)として認められているから?
  • 他の美術館から借りてきた作品は例外なく撮影は禁止している
  • 日本の美術館もアメリカ以外の美術館の基準に沿っている

こうしてみると日本の美術館だけが特別に厳しく館内撮影を禁止しているわけではないと判断してよいように思いますがどうなんでしょう。ただ一点、東京国立近代美術館とポンピドゥは著作権の切れていない作品の所蔵が多そうだけど、常設を撮影可にしているのは著作権の切れていないものすべて撮影不可シールを掲示しているということなのか、個人的な私的複製ということにしているかのかどうかは不明。近美はこんど注意してみてみないと。

で、私見ですが「日本だけが美術館のかんない撮影を禁止している」という印象が生まれてしまったかのは、近代以降の作品を中心にコレクションしている日本の地方美術館での経験とと欧米の大都市の大美術館での経験を等しいレベルで計ろうとしてしまっているからではないでしょうか。大都市の大美術館と比べるべきは日本では上記サンプルのようなナショナル・ミュージアムなので、そのレベルで比べてしまえば上記の調査の通り、撮影の許可不許可に関しては日本と欧米での基準に差はあまり見つけられないと思います。

というか、館内撮影に関してのlivedoorの記事ははっきり言って根拠のない憶測記事であり、ここではたとこれが以前過去記事でとりあげた記事を書いていたパブリック・ジャーナリスト工藤和江の記事だと気づいてまたこいつかよと。

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