横山めぐみ「ひらかれるはざま」、土方英俊展

藤沢市アートスペース 展示ルーム2で横山めぐみさんの個展「ひらかれるはざま」を観ました。横山さんは東京造形大の卒業生で私が卒業制作を担当していました。今回は食虫植物とヘビ、彼女が言うところの「美しい青年」をモチーフに描かれた絵画作品が展示されています。また、学生だった2019年から近作までの作品で構成されています。食虫植物の姿はグロテスクかつ美しく、美しい青年も整いつつ歪みを持っています。初期は厚く盛った絵具の醸し出す怪しさがありましたが、近作ではその怪しさを誇張したイメージで表現しようとしていたのだと理解できました。







横山めぐみ「ひらかれるはざま」

会期: 2026年4月28日(火)〜5月3日(日)
開館時間: 10:00-17:00(最終日は13時まで)
会場: 藤沢市アートスペース 展示ルーム2

銀座のギャラリーQで土方英俊さんの個展を観ました。土方さんは東京造形大学の後輩です。現在は実家のお寺でお仕事をしつつ、そうした背景も反映させた、清潔感のある抽象絵画を制作しています。卒業後しばらくは家を継ぐために発表から離れていたのですが、最近は毎年個展を開催するようになり、見るたびに絵が進んでいる様子がうかがえます。
発表復帰後の作品はスポイトで画面上にアクリル絵具を落とす行為を反復して制作されています。今回特に、何点かに物質感とイリュージョンの関係の面白さがあり、深化が実感できました。




土方英俊展

会期: 2026年4月27日(月)-5月2日(土)
会場: ギャラリーQ

名古屋市美術館・特集「河原温 一日を 一日で えがく」

名古屋市美術館で、所蔵している河原温の「Todayシリーズ」の絵画を全点展示した特集「河原温 一日を 一日で えがく」が開催されていました。
「Todayシリーズ」はカンヴァスに制作当日の日付だけを描く作品です。制作には、当日中に描き終わらない場合は破棄する、その時にいた国の言語で記す(ただしアルファベットを使わない国ではエスペラント語)などの規則があるとされています。

河原温の出身地ということもあるのでしょうが、名古屋市美術館がこれだけの量(29点)の日付絵画を所蔵していたことを今回初めて知りました。豊田市美術館には1か月分丸ごとの作品もあって展示された状態は壮観ですが、こちらでは1966年から1988年までと制作年の幅があり、このシリーズの変遷を辿ることができます。「Todayシリーズ」を考えるにはこちらの方がヒントが多いと感じました。

作品は大小ありますが、絵の厚みは一定しています。そして数字の部分には筆触がぎりぎり見えています。大きめの作品では数字にマスキングテープを用いており、白い下地に数字の形でマスキングを施したうえで着彩し、その後にマスキングを剥がして数字を白で塗り残しているようでした。ところによっては白がマスキングの線を越えて着彩部分にはみ出していたり、ピリオドの形などを大胆に調整している箇所も見られます。塗った白の上に外からグレーがかぶさるようにのっている部分もあり、作業的に描いているようでいて微妙なバランス感覚がはたらいていることがわかります。なお、小さめの作品ではマスキングは使われていないように見えました。こうした工程からは、様々な調整を重ねつつも、あくまで「地色の上に数字を描いた」状態を目指してペイントしていることがうかがえます。

今回の展示では1987年4月5日から11日までの7点が並んでおり、それぞれ作品ごとにグレーの色味が異なり、毎回混色していることがはっきりわかりました。展示を見た後に原健先生から、本人が「黒と白以外の全色を混ぜてグレーを作っている」と話していたことがあるとうかがい、納得しました。こうしたグレーの色味は、コレクション展に並んでいた初期作品《カム・オン・マイハウス》《私生児の誕生》(いずれも1955年)が一見グレーでありながら微妙な色を含んでいたことともつながって見えました。

数字は異なれど同じ対象を描いた作品が並んだときに浮かび上がるのは、その差異と共通点です。そして、ルールをもとに作られた一見無機質に見える作品群から強く感じられるのは「ペイントすること」そのものへの執着でした。ペイントするだけで絵画になるという仕組みを作ること、それがこの作品を支えているように思えました。

コレクション展に展示されていた初期作品2点は、バラバラにされたものも含む人体像が上下左右のない空間に詰め込まれた、変形カンヴァスに描かれた油彩です。サイズはどちらも横幅2メートル弱ほど。《カム・オン・マイハウス》の主題は明確ではありませんが、建築物のイメージにある球や円筒と、誇張された人体にある球や円筒が混ざり合っていることは伝わります。《私生児の誕生》はタイトル通り、主題は明確で、描かれているのはほぼ女性です。出産のイメージ、あるいは出生後に切断されたかのような子供の姿が人体パーツの中に見えました。
ともにほぼグレーの絵ですが、一部分だけ背景を黄色や緑の強い色彩で塗っている点も共通しています。このグレーの中にポン、とアクセントのように強い色が入るところも、「Todayシリーズ」にごく稀に赤や青の作品が混じることと繋がって見えました。

今日の気づきは、簡略化・戯画化された人物像に必ず「おへそ」が描かれていたことでした。河原温美術手帖に寄せたテキストで「絵画のおへその手術」という言葉を使っていたのを思い出します。伝統的で安定した構図や上下のある絵画空間からの脱却について書かれていたと記憶していますが、「ヘソ」は比喩として用いていただけだとばかり思っていました。実際には絵の中にも具体的にヘソが描かれていたのだと、あらためて気づいた次第です。

特集 河原温 一日を 一日で えがく

会期:2025年7月5日(土)−9月7日(日)
会場:名古屋市美術館 特集展示室

名古屋造形大学ギャラリー ・佐藤克久「こりごりごり」

名古屋造形大学ギャラリーで佐藤克久「こりごりごり」展を見ました。佐藤克久さんは、私が知り合った2000年代前半には立体作品を制作していましたが、ある時期から絵画へと移行しました。今回の展覧会は、その移行後の流れを辿りつつ、新作によって現在の位置を測る内容となっていました。

佐藤さんの絵画は、近代の抽象的表現を意識した造形と現代的なイメージを等価に混ぜ合わせながら、タイトルも含めて独特の脱力感のあるバランスに落とし込まれています。また、木枠と画布という絵画の物理的な構成要素を分解し、あえて「誤った」使い方をすることで、造形の可能性を広げる試みも重ねています。

絵画の枠組みを問い直しながらも、どこか軽やかさを失わない点に、佐藤さんらしい姿勢を改めて感じる展覧会でした。





《空空枠枠》2025、《空空枠枠》2025

《いんちき》2024-2025、《いんちき》2024-2025

《色景》2013/2025

《ジェリー》2024-2025

佐藤克久「こりごりごり」

会期: 2025年9月4日(木)~7日(日)、11日(木) ~ 17日(水). 13:00~18:00
会場: 名古屋造形大学ギャラリー