平野甲賀装丁術・好きな本のかたち

借り読み、読了。小野二郎著作集の装丁をドキュメントしつつ、平野甲賀の装丁方法、デザイン、タイポグラフィの考え方を語り口調でざっくばらんに解説している。ぼくからみると平野さんの仕事は描き文字の印象が強かったのですが、本人の指向は表現よりもその本に適切なかたちを与えることにあるようです。

装丁は、ちょっとしたサービス。ぼくができることといったら、その出版社がある感じをもって本を出しつづけているーその動きをサザナミみたいに、できるだけ気持ちよく表現していくことぐらいじゃないかな。
「2 編集者とはどうつきあうか?」p20

本にかかわるすべての人の「趣味」のレベルがもっと上がってくれば、デザイナーも、ほかの人たちといっしょに出版の仕事のうちに頭をそろえて沈んでしまうことができる。でも現実はそうじゃないから、特定のデザイナーの名前がブランドになってしまう。
「ぼくが好きな本のかたちーはじめに」p12

そういう反面、みずからが自己表現にはしっていた時期を認める部分もあるなど、自身の資質の把握に若干の揺れも感じられるのですが、そこがまた絵描き的には共感できてしまいます。
あと全体にわたって印刷にかんするこまかな書き表しの表現が素敵でした。いちばん印象に残ったのは字詰めについて語っていた章での杉浦康平さんを評したことば。

うまいと思うのは、やっぱり杉浦康平さんかな。白い紙面を切っていく黒い線がシャープでしょう。書道家みたいだ。
「9 ウィリアム・モリス杉浦康平の間で…」 p64