日本国憲法展 2024 Part1

無人島プロダクションで「日本国憲法展 2024 Part1」が始まりました。
私は設営を運営の皆様にお任せしていたので、初日にはじめて会場の様子をみることができました。
去年よりも作品間の間があって、じっくり作品+条文と向き合える構成になっており、グループ展として洗練されたように感じました。
また、今回は広島市現代美術館学芸員の角奈緒子さんがディレクションを担当されていることもあり、東京以外の土地で活動されているアーティストも多く参加されています。これまで知る機会のなかったアーティストの作品に出会えるという意味でもよい機会になりました。

以下は初日に拝見しただけでは作品の理解が追いついていないところがあったので後から調べてみた情報をまとめてみたものです。これからご来場いただく方のガイドになるかも知れません(写真を撮り忘れた作品があります…すみません)。



入江早耶《マリア・ダスト》
2022
ブロンズ
掛軸、消しゴムのカス、樹脂

第八十九条 公の財産の支出又は利用の制限
公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

入江は1983年岡山県生まれ。2009年に広島市立大学大学院芸術学研究科博士前期課程を修了し、現在広島を拠点に活動しています。2009年に岡本太郎現代芸術賞に入選、2012年には第6回shiseido egg賞を受賞しました。入江は二次元のイメージを消しゴムで消し、その消しゴムカスを用いて立体を作り上げるアーティストです。掛け軸の中から消えた観音像が現実の空間に立体として立ち上げられ、また別の作品では、紙幣の肖像画が胸像となって紙幣の上に配置されます。イメージとして流通し、流通することによって日常的な存在となっている図像を、自らの手で一旦消し去り、それを現実の空間に塑像として作り上げる入江の作品は、表象との関わりを巡る現代的な問題をユーモラスに提起しています。
入江早耶 | ARTISTS | 東京画廊 + BTAP TOKYO GALLERY + BEIJING TOKYO ART PROJECTS


水口鉄人《低い彫刻》
2021 ブロンズ

第四条 天皇の権能の限界、天皇の国事行為の委任
天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。
天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。

1985 広島生まれ。神奈川在住。
2014 広島市立大学大学院芸術学研究科博士後期課程単位取得満期退学
2011 広島市立大学大学院芸術学研究科博士前期課程修了
2009–10 ヴァイセンゼー芸術大学(ドイツ、ベルリン)交換留学
2009 広島市立大学芸術学部デザイン工芸学科卒業
CV | TETSUTO MIZUGUCHI | 水口鉄人



横山裕一 《「世界地図の間」イースト・プレス刊より》
紙 インク スクリーントーン

第七十三条 内閣の職務
内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
1. 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
2. 外交関係を処理すること。
3. 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
4. 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
5. 予算を作成して国会に提出すること。
6. この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
7. 大赦、特赦、減刑刑の執行の免除及び復権を決定すること。


毒山凡太朗「君之代」
2017
ムービーデータ
24分58秒

第二十条 信教の自由
信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
② 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
③ 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

《君之代》では、1895年から50年間に及ぶ日本統治時代に国家教育を受け、日本語を話すことができる 台湾のお年寄りへインタビューを行っています。
毒山 凡太朗(S11) | あいちトリエンナーレ2019



齋藤雄介《OOPARTS(pizza)》
2024

第八十七条 予備費
予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。
② すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない

生活の中から出た不要品や道で拾ったものなどの、一度人の手に渡った素材を扱い、セメントや木材、樹脂などと組み合わせた立体やインスタレーション又、紙袋やレシートなど様々な素材を用いたペイントコラージュ、料理の形態をとったハプニングを行うなど、多岐にわたる表現方法で作品を制作する。日常生活の中における人々の習慣やそれらの痕跡、又は社会のシステムに注視し、自身の体験と重ねて、現代に生きることの実感を表現している。

1981 神奈川県出身
2006 武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒業
齋藤雄介|ARTISTS|Art Center Ongoing



コウミユキ《”Stand up!” Series》
2021-2024
座った犬の置物、角材、粘土、グリッター、カルサイト、毛
H21×W25×D14 H27×W25×D12 H21×W22×D12 H26×W31×D11 H28×W28×D13 (cm)
(おもちゃ、も、地図、インドア、そぼくの順)サイズ可変

第十八条 奴隷的拘束及び苦役からの自由
何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

この展覧会では、お座りしている犬の置物を壊し、角材などで補強して立ち上がらせた”Stand up!”シリーズとインスタレーションで、会場が構成されています。
コウミユキ
美術/彫刻ユニット。京都府拠点。
「変身」や「野生」をテーマに、自然の美しさや、野生に備わる荒々しい美を喚起するような作品を制作している美術/膨刻ユニットです。
これまでに、野生の動物をモチーフとした彫刻作品や、白い毛並みをもつ動物(アニマル)の姿で行うパフォーマンスを発表してきました。
コウミユキ 個展「アイリス、宙に咲く」 | 日本美術倶楽部|作家や美術館等のアート情報



中尾美園《紅白のハギレ》
2018
墨、顔料、和紙、軸装(双福)、桐箱
各軸H268 ×W96.2 cm

第十二条 自由・権利の保持の責任、濫用の禁止
この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

本展では、京都市内に住んでいたある女性が所蔵していた「国旗セット」に取材した新作が発表された。94歳で逝去した女性は、祝日に、自宅に国旗を掲げるのが習慣だったという。中尾は、玄関外壁に取り付けられた旗竿を受ける金具に始まり、「国旗セット」と印刷されたビニールの収納袋、旗竿、その先端に付ける金球、そして折りたたんで保管されていた3枚の国旗をほぼ実物大で模写した。また、その1枚を広げた状態で模写したものの隣に、その「国旗」が10枚の「ハギレ」に切り分けられ、それぞれが「未来に起こりうる事態」のバリエーションとして描かれた作品が並べられた。一部がパッチワークの材料のように四角く切り取られた状態、破れた箇所がセロハンテープで補修された状態、当て布で継ぎ接ぎの処置を施された状態、水濡れによる染み、火災による焼け跡、子供の落書き、褪色などだ。
中尾美園「紅白のハギレ」:artscapeレビュー|美術館・アート情報 artscape



ユアサエボシ《献上》
2020
アクリル、キャンバス
162 ×227.3cm

第三十条 納税の義務
国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。



照沼敦朗《終りのない初まりの夢》
2014
アニメーション3分35秒

第二十五条 生存権、国の社会的使命
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
② 国は、すべての生活部面について、社会福祉社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

1983年千葉県生まれ、埼玉県拠点。2007年多摩美術大学絵画学科油画専攻卒業。同年、映像プロダクション会社に就職、2008年に離職し制作に専念する。作家自身が生まれつき弱視であることから、視覚そのものや、見える/見えないこと、それに伴った社会風刺、人間の内面、思想、夢などを、絵画や立体、アニメーションやインスタレーション作品として発表している。
主な展覧会に「高松コンテンポラリーアート・アニュアル vol.08/社会を解剖する」(高松市美術館、香川、2019年)、「六甲ミーツ・アート芸術散歩2018」(六甲高山植物園、兵庫、2018年) 。
照沼敦朗 | 黄金町バザール2021



末永史尚《お金》
2023
綿布に顔料、アクリル絵具
H60×W60cm

第八十五条 国費の支出及び国の債務負担
国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基くことを必要とする。

セルフ解説:
古いビデオゲームに登場する「お金」をモチーフにした絵画作品。16×16のドット絵です。
キャラクターが触れると点数やゲーム内で流通するポイントを得るアイテムはなぜかこういったドル袋の姿をしています。ゲームは違えど、その役割をなんとなく理解できてしまう図像の存在に興味を持って描いた次第です。
描きながら、絵画が崇高なものと考えられつつも、現在の社会では売買の対象でありどうしても商品としてあること、またそれに気づいていたであろうアンディ・ウォーホルのドルイメージの作品のことも想起していました。