私の属する空間

抽象的な形態の作品が展示されている展覧会の会場で作品を探しながら目を凝らしているとき、作品でないものを作品だと思い込んでしまっていたと気づくという経験があります。そんなときは思わず作品を誤認していたことの恥ずかしさで「誰かに見られてたかな…」と周囲をチラ見したりなんかして。
私にとってそれの初期というか初めての経験はまずは1994年、まだ吉祥寺にあった頃のギャラリーαMでの伊藤誠さんの個展でした。ほの暗いビルの通路の先にあるギャラリーにたどり着いて作品を見ようとしたとき、ドアの周りにあったものを作品だと思い込んだまま鑑賞を続け、見続けるうちにあれ、と思い作品データを確認してハッとした、という。
また、同年にギャラリーQでの坂崎隆一さんの個展では、ギャラリーがそもそもはビルの部屋であるという会場の仮設性を逆手にとった空間の扱い方をした作品を見ておりました。こちらは明確に「普通の鑑賞」を逆手に取った作品なのですが、作品を前にいつもの作品/非作品の境目の判断とは異なる対応を迫られ、自分の判断の成否に自信がなくキョロキョロしてしまった記憶があります。
今思えばそれらは作品に台座や額縁がないことの効用としての現実空間への侵犯の感覚であり、作品を観るということが外界から遮断された真空で行われているわけではないこと、生活と地続きの、私の属する空間で見ているのだということをあらためて認識させられた、そんな経験であったように思います。
以上、20年以上遅れた展覧会レビューでした。

木片と絵画

昔、学生時代に遺跡の発掘のアルバイトをしていました。
遺跡といっても縄文とか弥生とかそんな古代のものではなく、都内を掘り返したら出てきたという江戸末期の武家屋敷跡です。基本的には土の中から現れてくる建物の礎石跡を測定しつつ、同時に見つかる欠けた陶器や建物の残骸を丁寧に取り出して記録するという地味な作業です。
ある日その中に楕円形の木片に墨でちょいちょいと点と波線を描きこんだものを見つけました。何だこりゃ、といろんな角度から眺めているうち、それが木片を魚のイメージに寄せたものなのだ、と思うようになります。玩具ともつかぬ、絵ともつかぬ、実際の用い方が想像つかない物体でしたが、その在りようにはとても興味を持ちました。造形的にはとるにたらないものですが、木片が魚に見えたという感覚を数百年前に作った者と今の私が共有できていることに何かしらを感じとったのだと思います。
私が制作しているモノは日々生活の中で見ているものを元にした、それがそのものに見える/見えないの境を漂うモノであると認識しています。今の私の視覚経験を作品として残すことを、既存の絵画・彫刻のルールに作らされる感覚から逃れるように進めていた結果、いつの間にかたどり着いていたモノです。
作為不作為の違い、また目的が異なるので単純に比較はできないのですが、私の制作物も先に述べた木片と同じくのちのどこぞの誰かの目にとまるものになるのかな、などと夢想しつつ制作にむかいます。
(ちなみにそのアルバイトは地中からの菌に負けて外出禁止となるような体調となり辞めたのでした)

αMプロジェクト トランス/リアル - 非実体的美術の可能性 vol.3 末永史尚・八重樫ゆい

武蔵野美術大学が運営しているギャラリーαMは一年間を通して一人(年によっては2人)の外部キュレーターによって企画された連続する展覧会を開催しています。本年度は埼玉県立近代美術館学芸員の梅津元さんによる「トランス/リアル - 非実体的美術の可能性」が開催されており、私はその3回目「αMプロジェクト トランス/リアル - 非実体的美術の可能性 vol.3 末永史尚・八重樫ゆい」に参加いたします。前2回は梅津さんの年間ステートメントにある「作品の物質性/非物質性よりも、享受の経験における実体性/非実体性に注目する」の箇所が示すように塊をもたぬ彫刻、光のような版画が豊かな観賞経験を実現していたのですが、今回は2人展ということで、さらに複雑な体験を生じさせる展示となったような気がしています。
八重樫ゆいさんは画布にに筆/ナイフで絵具を乗せる際に生じる現象への目の向け方の幅が素晴らしく広く、最小限の現象から豊富な絵の言葉を生みだせる稀有な画家です。同じ空間に展示することでどう作品同士が反応するのかを楽しみにしています。


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http://gallery-alpham.com/
キュレーター: 梅津元
日時;2016/7/16(土) - 8/27(土) ※夏期休廊:8月7日ー8月15日
11:00~19:00
日月祝休 入場無料
会場:gallery αM(東京)

アーティストトーク: 7月16日(土)18時〜19時
オープニングパーティー: 7月16日(土)19時~