山口情報芸術センター[YCAM] 開館20周年記念事業 『Afternote 山口市 映画館の歴史』

私の故郷・山口市にある山口情報芸術センターYCAM]で、開館20周年記念事業『Afternote 山口市 映画館の歴史』展を見ました。

本展はタイトル通り、山口市の映画館の歴史を振り返る展覧会です。リサーチによって集められた映像記録や写真、ポスターやチケットなどの資料と、アーティストの志村信裕さんの新作映像作品『Afternote』の上映によって構成されています。
実は現在山口市には映画館がありません。YCAMに上映設備があるために、ここが唯一映画館的機能を果たす場所になっています。しかし映画が娯楽の中心であった時代には市内で10館以上が営業しており、山口市民はそれぞれ映画に接し、楽しんでいたのでした。


志村信裕さんの『Afternote』はそんな山口市の映画館の記憶を、関係者や映画を楽しんでいた人たちへのインタビュー、かつて映画館があった場所の取材を通して伝える約60分の映像作品です。インタビューに登場するのは映画館の元オーナー、映画館近くの和菓子屋さん、時計屋さん、などなど。皆さんご高齢なのですが、語り口がユニークなのです。
私が鑑賞した回では、高齢のお客さん集団が思い出を語ったり知ってる人の登場に反応したりしていました。かつて賑やかに映画が見られていた時、こんな雰囲気だったのかも…と思いながらの楽しい上映に参加できたのが嬉しかったです。
あと、インタビューに直接は出ないが文字起こしをナレーションで読み上げられている方もいるのですけど、読み上げはスペイン語+日本語字幕なんですよね。
スペイン語なのは山口がフランシスコ・ザビエルによって日本に初めてキリスト教が伝えられた土地であることが関係しているのでしょう。
そして字幕があることによって、この作品を映画鑑賞体験に近づけようとしているように感じました。設えも写真のように映画館に寄せつつ、さらに上映ブザーまで鳴らすことが出来るようにしてあるというこだわりが素晴らしい。




本作は、山口という一地方都市にとっての映画の記録に見せかけて、映画という芸術であり娯楽でもある文化がどのように人々に受け止められ、浸透していたのかを考える作品になっています。映画の内容については常々語られるのですが、それを広めた人、関わった人、見た人の存在なくてはそもそも映画は映画にならないこと、この当たり前の事実に気づかせてくれるのです。

開館20周年記念事業『Afternote 山口市 映画館の歴史』
会期: 2023年11月25日(土)~2024年3月17日(日)
会場: 山口情報芸術センターYCAM