「小林孝亘−ものとこころ−」

じつは西村画廊は移転後初めて行ったのだが、正直前の空間のほうが全然よかった。銀座の喧噪の地下に降りたなかにある、吹き抜けの大きく静かな空間で見る大作のタブローにもう出会えないと思うと少し寂しい。いまのスペースはギャラリーとしては広い方だと思うけれど、どうしても天井が低く感じてしまう。これまでの「小林孝亘さんの個展をみる」経験は前の空間でみることと不可分だったんだなあ、と思うくらい違和感があった。

作品は今回はすべて人物画。しかも画面の半分くらいが顔。あまり個性のない中性的な人物像にはなっているけれど、以前の風景や静物画よりも「小林孝亘の絵のスタイル」を感じる作品になっている。その結果、前の作品の、見ている人がそれぞれの経験に照らし合わせ、どこかで経験し、感じたことを代入できる器のようなニュートラルさは失われている。ぼくはそれこそが小林さんの絵の良さだと思っていたんだけど。