鈴木玲美|まるやまさとわ|和田咲良「ジャム」、「日本国憲法展 Part 2」、黒坂祐個展「そっぽを向く絵」

小金井アートスポット シャトー2Fで「ジャム」展を見ました。造形大大学院で研究補助教員を担当している鈴木玲美さんが参加しています。

東京造形大彫刻専攻出身で現在武蔵野美術大学大学院修士2年のまるやまさとわさんのスタイロフォームを素材にした作品がとても気に入りました。素材としてのスタイロフォームと既製品としてのスタイロフォーム、どちらにも見えつつ彫刻になろうとしているように見えたからかも知れません。



鈴木玲美、まるやまさとわ、和田咲良「ジャム」
会場: 小金井アートスポット シャトー2F
会期: 2023年5月17日(水)〜5月21日(日)
https://artfullaction.net/gallery-event/ジャム/


中目黒の青山|目黒で日本国憲法展 Part 2」を見ました。憲法全103条を美術、マンガ、写真、など69作品とともに紹介する書籍『日本国憲法』(松本弦人編、TAC出版、2019年)のアイデアをもとに、「日本国憲法日本国憲法の条文と新たに選ばれた作品を組み合わせて展示する展覧会です。

日本国憲法展 Part 2
会場: 青山|目黒
会期: 2023年5月20日(土) – 6月11日(日)
出品: 井田 大介、臼井良平、川上幸之介–橋の下世界音楽祭、庄司朝美、円空、荻野僚介、森栄喜、寺林武洋、木原悠介、マー関口、丹羽良徳、オサム・ジェームス・中川、中里斉
http://aoyamameguro.com/news/the_constitution_of_japan/


下北沢アーツで黒坂祐個展「そっぽを向く絵」を見ました。
黒坂さんは2型2色覚で、赤と緑の判別が他の人と異なることが多いのだそうです(彼の色に対しての感覚は —色のユニバーサルデザインを知る— 世界を構築する「色」の深淵。2型色覚の画家 黒坂祐インタビュー〈色彩検定UC級〉 を読むと少し理解できます)。彼はこの色覚をアイデンティティとして絵画制作に取り組んでいます。




初期は抽象的な形態を塗り分けたような絵画でしたが、最近は椰子の木や車など、モチーフがはっきり伝わる作品に変わってきていました。一方で薄い絵具の色面エリアが広くなって、塗りの際に生じる筆触が強く見えるようにもなっていました。
今回の個展ではその延長上にありながらも、図像に先立って色彩が見えてくるような作品が増えているように思います。


黒坂祐《岩/波》、2023年、綿布に油彩、112x145.5x3cm

この作品は描線が荒く形態のエッジがぼやけていることと、線もまた色彩を用いて引かれているので、色彩使用の基準がわからなくなってきます。現実の色がそのように見えることと、それを元にした絵の同じ部分の色がそう見えることの関係は当たり前のルールがあるようでいてそんなに簡単ではないのですね。自分はそこはいつのまにか深く考えずに自動的にやってしまいますが、彼はここに向き合って制作を重ね、問いを投げかけてくれます。

自分がはじめて「色」について考えたのは小学校の帰り道、よく晴れていた空を眺めながら歩いていた時のことでした。「自分は空を青だと感じて見ているけれど、これは他の人が見ている青と同じなのだろうか?」
他の色と比較して異なるこの色を青だと呼ぶところまでは同じかも知れないけど、実は全員違うように感じていたら、とか。でも違ったとしてもそれを判断できる人はどこにもいない、とか。急に1人で世界にいるような感じを覚えたような気がします。
黒坂さんの個展を見て、そんなことを思い出しました。

黒坂祐個展「そっぽを向く絵」
会場: 下北沢アーツ
会期: 2023年5月12日(金)-28日(日)
https://shimokitazawaarts.tokyo/yukurosaka_soppo/


書籍『現代美術情報 ギャラリー シマダの軌跡』

発行して2ヶ月経っていたのに、こちらのブログで紹介していなかったことに気づきました。
2月末に、書籍「現代美術情報 ギャラリー シマダの軌跡」を発行しました。
本書は東京造形大学の教育研究助成金を利用して、1984年から2003年まで活動していた現代美術ギャラリー「ギャラリー シマダ」の資料の整備および調査を行い、その記録をまとめたものです。

「ギャラリー シマダ」はアラン・ジョンストンやトーマス・シュトゥルート、ダン・グレアム、ニエーレ・トローニ、ジャン=マルク・ブスタモン、河原温といった国際的に活躍するアーティストの個展やグループ展を開催していた現代美術のギャラリーです。私の出身地でもある山口市で開設され、その後1990年代頭に東京に活動の中心を移したのですが、1974年生まれの私は山口市にあった頃のギャラリー シマダの展示を一度も見たことがありません。
上京して大学生になってから書籍を通してギャラリー シマダの活動を知り、東京のギャラリーでは何度か展覧会を見ています。ただ山口でニアミスしていたギャラリー シマダの展覧会のことがずっと気になっていて、2019年に思い立って知人を介して創設者の嶋田日出夫氏にインタビューを打診したのでした 。その際に嶋田氏より、ギャラリーの資料が未整理で残っていること、可能であればデジタルスキャン等による整備を依頼したいというお話があり、お引き受けした次第です。
しかし本事業、ギャラリー シマダが開催した展覧会は100近く、スキャンしたフィルムは3000カット、紙資料は膨大…と想定していたよりも大仕事でした。フィルムのスキャンは助成金を用いて外注しましたが、それでも被写物の特定がとにかく難しく、真っ黒な村上友晴さんの作品については今でもデータと写真を紐づけしきれていません。それでも昨年には山口のDo a Frontで展示をマケットで縮小再現した展示も行い、その締切のお陰で情報もある程度まとめることができ、こうやって当初目的としていた書籍の形で記録を残すことが達成できました。

書籍のデザインは川村格夫さんにお願いしました。川村さんは慶應義塾大学アート・センターで2014年に開催された「アート・アーカイヴ資料展XI「タケミヤからの招待状—TAKEMIYA INVITATIONS」」慶應義塾大学アート・センター(KUAC) | アート・アーカイヴ資料展XI「タケミヤからの招待状—TAKEMIYA INVITATIONS」の冊子デザインにおいて、残っていない案内はがきをグレーの四角に置き換えて資料の不在を示すという方法をとっていました。
愛知県美術館で2019年に刊行された「APMoA Project, ARCH, 2012-2017 記録集」という書籍のデザインでは、APMoA Project, ARCHが毎回制作していた二つ折りリーフレットを、元データではなくスキャンしてやや味わいを持たせたデータを使ってそのまま掲載して、制作時からの時間を表現する方法をとっていました。
APMoA Project, ARCH、特集・テーマ展 | 過去の展覧会・イベント | 展覧会・イベント | 愛知県美術館
このような彼の「記録をデザインする」「記録が記録であることをデザインで示す」ことへのアイデアが好きで、この書籍のデザインをお願いしました。本書の「展覧会記録」ページに彼の特色が出ていると思います。また、書籍タイトルの「現代美術情報」も川村さんのアイデアです。「現代美術情報」はギャラリー シマダが発行していた美術情報誌のタイトルだったのですが、この本の内容はまさしく現代美術の情報でしょう、と。そして本書の表紙の書体や文字レイアウトなどは情報誌「現代美術情報」のものをそのまま参照しています。


書籍にも載せていないおまけ話です。
私が通っていた高校の美術室に古い石膏デッサンが額装されて壁にずらりと並んでいたのですが、中でもひときわ上手だったものの下隅に「日出夫」とサインが記されていました。そう、それが嶋田日出夫さんの高校時代の石膏デッサンだったのです。

現代美術情報 ギャラリーシマダの軌跡

2023年2月25日発行
編集:末永史尚
編集協力:吉﨑和彦(山口情報芸術センター[YCAM]) 、嶋田日出夫、嶋田啓子
編集・校正:小野冬黄
デザイン:川村格夫
発行所:リマスタ

目次
  • はじめに
  • インタビュー 嶋田日出夫・嶋田啓子
  • ギャラリー シマダ作家リスト
  • 展覧会記録
  • ギャラリー シマダの変遷
  • ギャラリー シマダ年表
  • 刊行物リスト
  • プロフィール
  • あとがき